脱炭素化イノベーション
スマートメーターの普及やエネマネなどデジタル技術の進展によって、エネルギー使用の「見える化」サービスの提供は進んできました。
しかしながら、実効性のある「減らす化」の省エネDXは経済性などから発展途上にあり、建物電力において大きな割合を占める空調の省エネは、多くの建物でエアコンの設定温度の上げ下げなど人の運用に依存している実態にあります。
当社は、未開拓の大きな空調省エネポテンシャルに対して、低価格で実効性の高いDXサービスの創出を通じ、RE100など建物の脱炭素化の加速に寄与します。
低価格化アプローチ
室内センサー等を用いて最適な省エネ制御運用を図るEMS(エネルギーマネジメントシステム)などは、設備システムが複雑でコストが高く、後付けや中小規模建物には不向きでした
このため、低価格化アプローチとして、業務用エアコンで主流のビルマル(室外機1台で複数の室内機を管理)を対象に、空調電力消費の8ー9割を占める室外機の制御に特化する手法を選択しています
シンプルで多様な建物に汎用的な設備システムを使用し、室外機の出力上限のレベルと作動時間を制御運用する「電力のインプットコントロール」によって、従来手法と遜色ない省エネ効果の実現を図っています
省エネ制御の仕組み
エアコンの設定温度と室温のシステム調節などエアコン製品のフィードバックシステムに介入せず、
室外機の電力のインプットコントロールで省エネを制御します。このため、エアコンの設定温度や風量調節などのユーザーの操作性は変わらず調整いただけます
空調室外機の出力上限設定(4段階)を30分サイクル(例:出力上限50%を15分/30分)で制御し、30分間の使用量(デマンド)を削減する仕組みです。急激な出力上昇、慣性的な出力などを確実に削減することができます
省エネシステムの特長
建物実証試験
(2022-2024)
東工大(現在、東京科学大)での研究において、一般の小規模事務所ビルを対象に空調室外機の省エネ制御の実証試験を行いました。
対象建物の電力需要の年間ピーク(2022年8月)に対して、空調室外機の省エネ制御装置を取り付け、2023年7月24日から制御を開始し、夏季ピーク時期の制御効果・影響を計測・分析しました。
2023年夏は2022年に比べ猛暑でしたが、8月の前年比較では建物電力の基本料金に影響するピークデマンドは25%削減し、使用量は夏季日中の高い料金時間帯の使用量が7%削減しました。また、省エネ制御に伴う室温上昇等の悪影響は見られず、室温影響のない省エネ制御運用が検証されました。
経過観測を続けた2024年8月実績においても2023年と同様の成果が得られ、経済効果の高いシステム・運用の有効性と安定性が確認できました。
この省エネ制御方式は、急出力ほどデマンドの抑制効果が高く、予測の難しいピーク出現時間にも対応できます。仮に、実証試験と同様に一棟あたり30KWのピークカットが得られる建物1万棟に普及した場合、30万kWのピークカット効果があると試算され、ネガワットジェネレーターとして、地域の電力需給の緩和策に貢献することが期待されます。
<2023年夏季ピーク>
- 建物の1日の電力需要カーブの変化
省エネ制御によって朝と午後一のデマンドの急上昇が消失.室外機のデマンドは台形状に変化した.
- 8月の建物電力の制御前(2022)と制御後(2023)の比較
・制御によって,建物の最大デマンドの最高気温の感応度が高気温領域で変化した.
・電力カーブの急峻な上昇がなくなり,8月(2022年の年間ピーク)の最大30分デマンドは25%低下した.
- 室温(平日業務時間5分毎)の度数分布
制御前2週間(青 ),制御後2週間(赤)
建物の執務3フロアにおいて,省エネ制御よる室温上昇はみられなかった. (注)エアコンの設定温度・風量調節は自由
- 建物の1日の電力需要カーブの変化
<2024年夏季ピーク>
- 8月の前々年同月比較 (2024年8月と制御前の2022年8月)
・制御によって,建物の最大デマンドの最高気温の感応度が高気温領域で変化.2023年実証試験と同様の結果が得られた.
・2022年8月の最大30分デマンドから26%低下.2023年実証試験とほぼ同様の結果が得られた.
- 室外機出力と対応フロアの室温
※エアコンの設定温度・風量等のユーザー調整は自由
・2024年夏(東京)で最も気温が高かった7月29日(月)の室外機の出力と対応するフロアの室温の推移をグラフ化(5分毎).
・室外機の出力はサイクリックに削減されているが,業務時間中の室温は28℃以下に保たれ,執務環境への悪影響はなかった.
- 建物電力3年分のデータの分布変化(平日データ、1月1日から9月30日)
(注)2022年(緑)は制御なし、,2023年(青)は制御有無が混在, 2024年(赤)は全期間で制御.
・1日の建物最大デマンド, 使用量ともに,制御なしの2022年から,空調使用の多い高気温・低気温領域で大きく低下した.
・ピークカットだけでなく,年間を通じて省エネ効果(使用量・CO2)が得られた.
- 8月の前々年同月比較 (2024年8月と制御前の2022年8月)